
連日のように、こんなお悩みを耳にします。
「最近、人を見ると吠えるようになってしまったんです」
「散歩中に犬を見ると興奮してしまって…」
そして多くの場合、その後にこう続きます。
「しつけ教室に行った方がいいでしょうか?」
私はこれまで長年、トリマーとして、そして犬の幼稚園を運営する立場として、数えきれないほどの飼い主さんのお悩みを聞いてきました。
その中で強く感じていることがあります。
それは社会性トレーニングは「問題が出てから」では遅いことが多いという現実です。
今日はなぜそう言えるのか、そして本当に大切な社会性とは何なのかを、現場で見てきた事実と、世界の研究データを交えながらお伝えします。
目次
- 犬の問題行動の多くは「社会性不足」から始まる
- 犬には「社会化期」という大切な時期がある
- 社会性には2つの種類がある
- ① 人間社会への適応力
- ② 犬同士のルール
- なぜ「吠えてから」では遅いのか
- 社会性を育てた犬が見せる変化
- 犬と人が幸せに暮らすために本当に必要なこと
犬の問題行動の多くは「社会性不足」から始まる
犬の問題行動と呼ばれるものには様々なものがあります。
- 人に吠える
- 犬に吠える
- 噛みつく
- 散歩で引っ張る
- トリミングを嫌がる
しかし現場で長く見ていると、これらの多くはしつけの問題ではなく、社会性の問題であることが分かります。
つまり「何をしていいのか分からない」「どう接していいか分からない」というから起きているのです。
アメリカ獣医行動学会(American Veterinary Society of Animal Behavior)も、
子犬の社会化不足は攻撃性や恐怖行動の主要な原因の一つであると発表しています。
つまり、問題行動を防ぐ一番の方法は「叱ること」ではなく、
社会性を育てることなのです。
犬には「社会化期」という大切な時期がある
犬には「社会化期」と呼ばれる、とても重要な時期があります。
これは一般的に生後3週〜12週頃と言われています。
この時期の犬は、驚くほど柔軟に世界を受け入れます。
- 人
- 犬
- 音
- 環境
- 触られること
こうした経験を「当たり前」として受け入れることができるのです。
逆に言えば、この時期に経験が少ないと、成長してから未知のものに強い警戒心を持つ犬になる可能性があります。
イギリスのリンカーン大学の研究でも、子犬期の社会化経験が少ない犬ほど、恐怖行動や攻撃行動が増える傾向があることが報告されています。
つまり社会性とは「後から頑張るもの」ではなく、
早い段階で自然に身につけていくものなのです。
社会性には2つの種類がある
私は長年の現場経験から、犬の社会性には大きく分けてがあると考えるようになりました。
- 人間社会への適応力
- 犬同士のルール
この2つがバランスよく育ったとき、犬はとても穏やかで落ち着いた存在になります。
① 人間社会への適応力
今の日本で犬は、人間社会で生きていくしかありません。
住宅街、散歩コース、病院、トリミングサロン。
犬の生活のすべては人間社会の中にあります。
もし犬が
- 人を怖がる
- 人に吠える
- 触られるのを嫌がる
このような状態だと、犬にとって毎日がストレスになります。
そして残念なことに、犬が苦手な人たちから見ると、
「怖い犬」「迷惑な犬」という存在になってしまうこともあります。
それは犬にとっても、飼い主さんにとっても、とても暮らしづらい社会です。
だからこそ、犬が
- 人を怖がらない
- 人を怖がらせない
- 落ち着いて過ごせる
この力を育てることが、とても大切なのです。
② 犬同士のルール
もう一つ重要なのが、犬同士のルールです。
昔は犬社会がありました。
近所に犬がいて、自然と犬同士の関わりがあり、
遊びながら犬社会のルールを覚えていったのです。
しかし今はどうでしょうか。
犬はそれぞれの家庭の中で暮らし、
他の犬と接する機会がほとんどないまま成長することも珍しくありません。
その結果、犬同士の距離感が分からず、
- 近づきすぎる
- 怖がる
- 興奮する
という状態になる犬が増えています。
犬同士のルールを学ぶ一番の方法は、
幼い頃に先輩犬から学ぶことです。
犬は犬から学びます。子犬の甘噛みについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
これはどんな人間のトレーニングよりも自然で、深く身につく学びです。
なぜ「吠えてから」では遅いのか
ではなぜ、吠え始めてからでは遅いのでしょうか。
理由はとてもシンプルです。
犬の脳は経験によって「世界の見え方」が決まるからです。
例えば
- 人を見ると怖い
- 犬を見ると怖い
このような経験を何度も繰り返すと、犬の脳は
「人=危険」
「犬=危険」
と学習してしまいます。
そうなると、その後どれだけトレーニングをしても、
を消すのはとても難しくなります。
つまり問題行動とは、犬がわがままなのではなく、
場合が多いのです。
社会性を育てた犬が見せる変化
社会性が育った犬には、ある共通点があります。
- 落ち着いている
- 人に優しい
- 犬にも優しい
- トリミングでも暴れない
そして何より、家に帰ったときの姿が違います。
発散した犬は、驚くほど穏やかになります。
そしてその落ち着きが、飼い主さんにとって心の平安になります。
私はこの瞬間を、何度も見てきました。
犬が変わると、飼い主さんの表情が変わります。
犬との暮らしが、もっと楽しく、もっと幸せになるのです。
犬と人が幸せに暮らすために本当に必要なこと
犬のしつけというと、多くの方が「コマンド」や「トレーニング」を想像します。
しかし本当に大切なのは、もっとシンプルなことかもしれません。
それは社会性です。
人と穏やかに暮らす力。
犬同士のルールを理解する力。
この2つが育つことで、犬は安心して生きることができます。
そしてその安心が、飼い主さんの安心にもつながります。
犬と暮らす時間は、人生の中でもかけがえのないものです。
だからこそ私はこれからも、犬と楽しむ飼い主さんで溢れる街を増やしたいと考えています。
犬が幸せで、飼い主さんも幸せ。
そんな暮らしが当たり前になる社会を、少しずつ広げていけたらと願っています。
