あなたと愛犬にぴったりの関係性を選びましょう!
愛犬との暮らし、本当に幸せですよね。ワンコと触れ合っている時間は、日々の疲れも吹き飛んでしまうほど、私たちにたくさんの癒しと喜びを与えてくれます。でも、時には「うちの子、どうしてこんなことするんだろう?」とか、「このしつけ方で本当に合ってるのかな?」なんて、悩んでしまうこともあるかもしれません。
特に、インターネットや雑誌には色々な情報が溢れていて、「何を信じたらいいのか分からなくなっちゃった」と感じる飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか。私もこれまで、たくさんの飼い主さんとワンコたちに出会い、彼らの悩みと向き合ってきました。私自身も、かつては試行錯誤の連続でしたから、その気持ち、本当によく分かります。
今回は、そんな情報過多の時代だからこそ、シンプルに「飼い主さんとワンコの関係性」について、私の経験と具体的な事例を交えながらお話ししたいと思います。実は、犬と上手に付き合っている飼い主さんには、大きく分けて2つのタイプがあるんです。どちらが良いとか悪いとかではなく、**「あなたと愛犬が、家族として一番心地よく過ごせるのはどちらか?」**という視点で考えてみてくださいね。

目次
- 愛犬との関係性、あなたはどのタイプ?
- タイプ①:飼い主が「犬のリーダー」の場合
- タイプ②:飼い主が「犬のパートナー」の場合
- 「どっちつかず」が一番ワンコを混乱させる
- あなたと愛犬にぴったりの関係性を見つけるために
1. 愛犬との関係性、あなたはどのタイプ?
飼い主さんとワンコの関係性には、大きく分けて次の3つのタイプがあると考えています。
- 飼い主が「犬のリーダー」
- 飼い主が「犬のパートナー」
- どっちつかず

この中で、「これは良くないな」と私が強く感じているのは、実は③の「どっちつかず」なんです。ワンコは混乱しますし、飼い主さんも「しつけって、結局どうすればいいの!?」と迷路にはまってしまいかねません。そうなると、せっかくの愛犬との生活が、ストレスの多いものになってしまうこともあります。
夫婦関係に例えるなら、亭主関白と、かかあ天下のようなものでしょうか。どちらが良い悪いではなく、お互いが心地よく過ごせるなら、それは素敵な関係性ですよね。ワンコとの関係も同じなんです。
今回は、この中から特に**「飼い主が犬のリーダー」と「飼い主が犬のパートナー」**という2つの関係性について、そのしつけ方や接し方の違いを詳しくお話ししていきます。細かいテクニックの話は一旦置いておいて、まずはそれぞれの「考え方」や「根本的なアプローチ」の違いを理解することが大切です。
2. タイプ①:飼い主が「犬のリーダー」の場合
「リーダー」と聞くと、なんだか厳しくて、ワンコを抑え込むようなイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんね。でも、私が考える「リーダー」は、ワンコを一方的に従わせるのではなく、ワンコが安心して生活できるための明確なルールを示し、それを一貫して守るという意味合いが強いんです。
「ノミの実験」の話に学ぶリーダーシップ
皆さんは、「ノミの実験」の話をご存知でしょうか?インターネットで検索するとすぐに出てきますので、詳しく知りたい方はぜひ調べてみてください。ざっくりお話しすると、普通のノミは、あの小さな体で1メートルや2メートルもジャンプできるそうです。ところが、そのノミを30センチくらいの蓋つきの瓶に入れ、しばらく閉じ込めておくと、何回もジャンプして蓋にぶつかります。そして、それを繰り返すうちに、今度は蓋を外してもノミは瓶から飛び出さなくなる、という話です。

この話は、人間教育においては、制限を設けることの弊害として語られることが多いですよね。「可能性を摘んでしまう」という文脈で使われます。しかし、犬のしつけ、特に飼い主が「犬のリーダー」になる場合、この考え方を良い意味で応用できると私は感じています。
ワンコが問題行動を起こす時、それはしばしば「飼い主の意図を試している」という側面があります。「これはどこまで許されるんだろう?」と、まるで蓋に何度もぶつかるノミのように、繰り返し挑戦してくることがあります。例えば、テーブルの上の物を取ろうとすること、インターホンが鳴るたびに吠え続けること、散歩中に引っ張り続けることなど、様々な場面でそれが現れます。
飼い主が「犬のリーダー」となる場合、この「問題行動」に対し、飼い主はまるで瓶の蓋のように、強い意志を持って一貫した態度を示すことが非常に重要になります。「これはダメ」「そこは行っちゃダメ」というメッセージを、揺るぎなく、毎回同じように伝え続けることで、ワンコは「ああ、これは挑戦しても無駄なんだな」「この行動は許されないんだな」と理解し、良い意味で諦めることを覚えます。
私が以前担当したお客様で、来客があるたびに飛び跳ねて吠え続けるゴールデンレトリバーの飼い主さんがいらっしゃいました。飼い主さんはとても優しく、ワンコが可愛くてつい甘やかしてしまうタイプ。ですが、それではワンコの興奮が収まらず、お客様も困ってしまう状況でした。そこで私は、飼い主さんに「ワンコが飛びつくたびに、静かに無視し、落ち着いたら声をかける」ということを徹底してもらうようアドバイスしました。最初はワンコも「あれ?いつもの反応と違うぞ?」と戸惑い、さらに激しく飛びつこうとしましたが、飼い主さんが根気強く、一貫して「蓋」の役割を果たした結果、数週間後には来客時も落ち着いていられるようになりました。
「犬のリーダー」になるしつけには様々なテクニックがありますが、一番大切なのは、**飼い主さんの「一貫した強い意志」**です。テクニックよりも、まずは「私はこの子のリーダーとして、明確なルールを示すんだ」という強い気持ちを持つこと。それが、このタイプのアプローチの肝になります。
3. タイプ②:飼い主が「犬のパートナー」の場合
先ほどお話しした「リーダー」タイプが、ぶつかってくるワンコのエネルギーに対し、一貫して「蓋」となる強い意志を示すのに対し、「パートナー」タイプは全く異なるアプローチを取ります。
エネルギーを「方向転換」させる知恵とテクニック
「パートナー」タイプの飼い主さんは、ワンコが何か問題行動を起こしそうな時、蚤がジャンプしてぶつかる蓋、またはゆるがない壁のように跳ね返すのではなく、そのエネルギーを上手に別の方向へ転換させる知恵やテクニックを磨きます。

例えば、車や自転車に向かって吠えてしまうワンコの場合を考えてみましょう。「リーダー」タイプなら、「ダメ!」と毅然とした態度で注意し、吠えるのを止めさせるでしょう。しかし、「パートナー」タイプの場合は、車や自転車に意識が向く前に、ワンコが大好きなおもちゃやおやつなどの「モチベーター」を使って、気を引くような方向転換を行います。
「あ、ワンコが車に気づきそうだな」と感じたら、その瞬間に「ほら、これだよ!」と最高に魅力的なおやつを見せたり、大好きなおもちゃを投げたりして、意識をそらすのです。この**「タイミングを逃さずに、ワンコの興味を別のものへ移す」**ことが非常に重要になります。そして、そのためには、常にワンコのモチベーターをポケットに忍ばせておくなど、準備も欠かせません。
私も以前、自転車に異常に反応して吠えてしまうトイプードルの飼い主さんと接したことがあります。そのワンコは自転車が視界に入ると、もう飼い主さんの声も届かないくらい興奮して吠え続けてしまう子でした。飼い主さんは「吠えるのを止めさせなきゃ」と必死にリードを引っ張ったり、叱ったりしていたのですが、なかなか改善しませんでした。
そこで私は、そのワンコが大好きなジャーキーを常に持ち歩くようアドバイスしました。そして、遠くに自転車が見えた瞬間に、「ジャーキー食べる?」と声をかけ、自転車からワンコの視線をそらしてジャーキーを与える練習を始めました。最初は難しかったのですが、繰り返すうちにワンコは「自転車が見えたらジャーキーがもらえるかも!」と期待するようになり、吠えることなく飼い主さんの方を見るようになったんです。これはまさに、ワンコの「吠える」というエネルギーを「ジャーキーをもらう」という別の方向へ上手に転換できた成功例だと感じています。
「パートナー」関係における指示の意味
ここで一つ注意していただきたいことがあります。巷でよく見かける光景として、「パートナー」の関係性を築いているつもりの飼い主さんが、「お座り」「お手」など、命令口調で指示を出している姿があります。しかし、この場合のワンコの行動は、必ずしも飼い主さんの指示に従っているとは限りません。
ワンコは「この飼い主さんを喜ばせれば、大好物のおやつがもらえるぞ!」と理解して行動していることが多いのです。だから、おやつがないと「お座り」も「お手」もしてくれない、なんてこともよくあります。これは、ワンコが飼い主さんを「命令する相手」としてではなく、「おやつをくれる相手」として認識しているからに他なりません。
「パートナー」の関係性では、ワンコが指示に従うのは、その行動によってワンコ自身にメリットがあるからです。そのため、飼い主さん自身が不安な場所や、ワンコを制御する自信がない場面は避けるようにしましょう。例えば、交通量の多い場所での「待て」や、他の犬と出会った時の「おいで」など、ワンコが簡単に従わない可能性のある状況では、無理に指示を出して失敗体験を積ませるよりも、最初からそういった状況を避ける、あるいは環境を整えてから練習する方が賢明です。
「パートナー」の関係性は、飼い主さんの知恵と工夫が試されますが、ワンコの自主性を尊重し、信頼関係を築きやすいというメリットもあります。

4. 「どっちつかず」が一番ワンコを混乱させる
ここまで、「飼い主が犬のリーダー」と「飼い主が犬のパートナー」の2つのタイプについてお話ししてきました。どちらのタイプも、それぞれにメリットがあり、ワンコと飼い主さんの性格やライフスタイルによって、合う合わないがあります。
しかし、私が一番避けたいと考えているのは、冒頭でも触れた**「どっちつかず」**の関係性です。

例えば、ある時は「リーダー」のように厳しく叱ったかと思えば、次の瞬間には「パートナー」のように甘やかしてしまったり。あるいは、家族の中でしつけの方針がバラバラで、お父さんはリーダー、お母さんはパートナー、お子さんは甘やかし放題……なんてことになると、ワンコは「あれ?結局、どうすればいいの!?」と完全に混乱してしまいます。
人間でも、上司の指示が毎回コロコロ変わったり、家庭内で意見が食い違ったりすると、どうしていいか分からなくなってしまいますよね。ワンコも同じなんです。彼らは私たち人間の言葉を理解できるわけではありませんから、飼い主さんの態度や一貫性から、ルールや行動の指針を読み取っています。その指針が曖昧だと、ワンコは不安になり、ストレスを抱えてしまうことにもなりかねません。そして、その不安やストレスが、吠えや噛みつきなどの問題行動として現れてしまうケースも少なくありません。
実際に、私のところへ相談に来られる飼い主さんの多くが、この「どっちつかず」の状態に陥っていると感じています。雑誌やインターネットで得た情報を色々と試してみるけれど、どれも中途半端になってしまい、結局うまくいかずに「うちの子はダメなんだ…」と諦めてしまう方もいらっしゃいます。
しかし、それはワンコがダメなのでも、飼い主さんがダメなのでもありません。ただ、関係性の軸が定まっていないだけなんです。軸が定まれば、そこから具体的なしつけの方法も見えてきます。
5. あなたと愛犬にぴったりの関係性を見つけるために
さて、「リーダー」と「パートナー」、いかがでしたでしょうか?ご自身の普段のワンコとの接し方を思い浮かべながら、どちらのタイプが近いと感じましたか?
ちなみに、世の中の一般的なしつけ情報(雑誌やインターネットの記事など)では、「飼い主が犬のリーダーとなって行う方法」が多く紹介されているように感じています。ですから、もしあなたが「パートナー」の関係性を築きたいと考えているのに、そうしたリーダーシップベースの情報だけを真似してしまうと、なかなかうまくいかないかもしれません。
大切なのは、「どちらかを選び、その方針に沿って一貫した接し方をする」ということです。どちらが良い、悪いではありません。夫婦関係のように、ワンコと飼い主さんの個性に合わせて、一番心地よく、幸せに暮らせる関係性を築くことが一番なんです。
まずは、ご家族で話し合って、**「私たちは、この子とどんな関係性で過ごしていきたいだろう?」**ということを、ぜひ一度じっくり考えてみてください。
もし、「うちの子は、どんな関係性が合っているんだろう?」「私たち家族は、どっちのタイプを目指せばいいんだろう?」と迷われたら、いつでもご相談くださいね。私も「犬幸村(けんこうむら)」のトリマーとして、ハンドラーとして、そしてセミナー講師として、これまでたくさんのワンコと飼い主さんを見てきました。その経験から、あなたと愛犬にぴったりの関係性を見つけるお手伝いができると信じています。
ワンコと飼い主さんが、心から「犬幸(けんこう)」な毎日を送れるよう、私も全力でサポートさせていただきます。